夏海 清加 さん
欧米では教育現場で当たり前のプログラムながら、日本ではまだ聞き慣れない
「ミュージカル教育」。夏海清加さんはNYでその真髄を学び、
日本で「JOY Kids' Theater」を立ち上げた第一人者です。
子供達と一緒に作り上げるミュージカルを運営するほかにも、
日本の小中学校へ「ミュージカル教育」を啓蒙する活動も精力的に続けています。
そのパワフルな原動力のきっかけは、ご自身の幼少時の体験にありました。
「私、佐賀の大自然の中で育ったんです。温かい家庭に恵まれて幸せでしたが、教室にいるのが苦痛なくらい、学校生活に難がありました。男勝りの女の子で、とにかくやんちゃだったので、例えばお友達の靴がなくなったらまずは『清加、どこやった?』って聞かれるという状況だったんです。すごく傷つきましたし、学校は教育する場なのに、どうしてこういう大人がいるんだろうって強い疑問を抱きました。私はそういう大人にはならないぞ!という反骨精神もあって反抗的だったんでしょうね、完全に"出る杭"という存在で押さえつけられていました。そんな中、習い事のバレエ教室の先生だけは、私を肯定して褒めて伸ばしてくれたことも大きく作用して、高校生で進路を考えるとき、舞台芸術という道を目指すことにしたんです。」
明治大学進学後、NYへ単身留学。小さな縁を持ち前のガッツで繋げ、子供ミュージカルを専門としている団体「Random Farms Kids Theater」で、教育者側の立場でミュージカル教育のノウハウを学ぶチャンスを得た。
「多様性に溢れた子供たちが、本当にキラキラした目でNYの本場のブロードウェイの演目を一生懸命に一丸となって取り組んでいるのを目の当たりにして、もう本当に感動してしまって。それと同時に、私も5,6歳の時にこんな教育が受けたかった、同じ地球に暮らす人間なのに、生まれた場所が違うだけで、こんなにも教育格差があるんだと衝撃を受けたんです。『Be yourself. Tell your story.』が、講師が子供に声がけする際の合言葉。こんなにも自分の意思をしっかりと伝えて表現できる場が幼少期からあるというのは、自分を誰かと比較せずに自己肯定を伸ばすことに繋がると身を以て教えてもらいました。」
この教育を日本でも是非広めたいと、帰国後に24歳で「JOY Kids' Theater」を立ち上げ、今年で13年目。今では未就学児から大学生までの子供たちや学生がレッスンを楽しみ、それぞれの感受性を育てている。日本での公演はもちろんのこと、実際に子供たちをNYへ引率し、アメリカの子供たちと一緒に学び、本場のブロードウェイに触れることができる「海外プログラム」も積極的に行っている。
「ミュージカル教育というものが日本にも必要だという危機感と強い使命感でやってきました。やりがいを感じる瞬間は、ちょっと学校に居づらくて不登校になってしまった子がうちのレッスンを経てまた登校できた時や、進路を考える年頃の子供たちが、周りの意見ではなく、自分の意思で将来を決める手伝いができた時ですね。並行して、文科省に掛け合って、日本の公教育へ広められるように取り組んでいます。なかなかハードルが高いというのが現状ですが、欧米諸国と同じように、日本でも、国語や算数と同等に演劇(芸術)があることが当たり前になるように、働き続けていきたいと思っています。」